「最初にカオスが生じた。次に、胸広きガイア。
これぞ雪に輝くオリュンポスの頂に住みたもう神々すべての永久に揺るがぬ御座所。また道広き大地の奥底なる薄暗きタルタロスと、さらに不死なる神々の中で最も美しいエロスが生まれた」
紀元前8世紀の詩人ヘシオドスが、『神統記』の中にこう記したエロス。それは、世界の始まりと共に生まれ、あらゆる物と物、人と人を結び合わせる愛の神として崇められた。
それから数世紀。同じ愛の神アプロディテの子供とみなされるようになったエロスは、美しい青年、あるいは、いたずら好きの天使のキャラクターを与えられ、神話として語り継がれていくさまざまなロマンスを生み出していった。
エロスの放った黄金の矢に、運命を翻弄されるアポロンとダプネ。さらには、エロス自身も、自らの指を傷つけた矢の魔法によって、プシュケへの激情に身を焦がすことになる。
喜び、悲しみ、怒り。愛を起点にするすべての感情を支配するエロスからは、神も人も逃れることができない。
そしていま、エロスには、新たな神話が与えられた。
報われない愛の切なさを描くウォン・カーウァイ、心かき乱すエロスのいたずらを描くスティーヴン・ソダーバーグ、そして、自然の中にエロスの原点を見出したミケランジェロ・アントニオーニという、3人の語り部たちの手によって。