最新情報作品情報予告編レビューダウンロードインタビューディレクターズ劇場情報


キャスト&スタッフ ●監督コメント

 1963年の香港。仕立屋の見習いとして働き始めたチャン(チャン・チェン)は、師匠ジン(ティン・ファン)の命令で、大切な顧客の元を訪れた。彼女の名は、ホア(コン・リー)。たくさんのパトロンを抱え、瀟洒なアパートで優雅に暮らす有名な高級娼婦だ。

 緊張に身を固くしながら、彼女が仕事を終えるのを待つチャン。隣室から漏れてくる喘ぎ声を無視しようとしても、身体が勝手に反応してしまう。やがて、客と入れ替わりにホアの寝室に招き入れられたチャンは、ズボンの前を隠しながら、立ちつくすことしかできなかった。そんな彼に、ホアは命じる。「ズボンを脱ぎなさい」と。

 驚きと当惑にかられるチャンだったが、「従わなければ師匠に言いつける」というホアの言葉を聞いた彼に、選択の余地はなかった。言われるまま、ズボンと下着を脱いだチャンの手に、ホアがそっと触れる。「女の身体に触ったことがないんでしょ? それでどうやって仕立屋になるというの?」。彼女は、チャンの身体に手をのばし、優しく太股を愛撫した。「ジンは、あなたに才能があると言ったわ。いつかあなたが私の仕立屋になるのよ。この感覚を覚えておいて。そして、私に美しい洋服を仕立ててちょうだい」。チャンの両脚の間をまさぐっていたホアの手が、ゆっくりと動き出す……。

 その日から、チャンは何度もホアの元に呼ばれ、彼女のためにたくさんのドレスを仕立てた。しかし、最初の日のような出来事は、あれから一度も起こらなかった。チャンはただ、ホアが他の男のために着飾るドレスを仕立てるだけ。それでも、彼の胸は喜びで満たされていた。心をこめてドレスを仕立てる度に、あの時の手の感触が蘇ってくるからだ。

 そんな日々が数年間続き、チャンは仕立屋としての腕と評価をあげていった。それとは逆に、ホアの人生は下降線をたどった。パトロンに逃げられ、仕事も減った彼女は、仕立屋の支払いを滞らせるようになった。それが半年続いたあと、チャンはジンから集金に行けと命じられる。いまは掃除も行き届かなくなったアパートでチャンを出迎えたホアは、「旅に出るから服を売って」と、ドレスの山を差し出した。そして、これまでのお礼に酒をふるまいたいと申し出た。黙って杯を交わすふたり。数日後、チャンは再び集金にホアのアパートを訪れたが、そこにはすでに、彼女の姿はなかった。

 ジンの元に、ホアから連絡が入ったのは、それから数年後のことだった。新しいドレスの注文を受けたチャンは、うらぶれたホテルに彼女を訪ねて行く。やつれた顔に生活の苦労をにじませたホアは、チャンがまだ独身だと知ると、「私が相手ではだめかしら?」とたずねた。チャンは、この時をどれだけ待っていただろう。しかし、ホアの言葉が冗談だと知って、彼の喜びはすぐ落胆に変わった。彼女は、アメリカにいる愛人に会うためのドレスを仕立ててもらうために、チャンを呼び出したのだ。

 この最後のチャンスに、全財産を賭けてドレスを仕立てると言うホアに、チャンは言った。「私はまだ、あなたのドレスをとってあります。だから、それを仕立て直せばいい」。採寸のために、彼の指先が身体に触れたとき、ホアはチャンの手を握りしめて泣いた。

 チャンは、懸命に作業と取り組んだ。自分の仕立てるドレスが、ホアを窮地から救い、彼女に幸せをもたらすことを願いながら。しかし、ドレスが仕立て上がった頃、もはやホアのアメリカ行きの夢は潰(ルビ:つい)えていた。

 街娼の暮らしの果てに病を患ったホアのために、家賃を支払ってやるチャン。今ではベッドから起きあがることもできなくなったホアは、見舞いに来たチャンをみつめながら、「初めて会った日のことを覚えているかしら?」と、たずねた。チャンは答えた。「あの日、あなたの手に触れていなかったら、私は仕立屋になれませんでした」と。

 彼は、「もっと近くに来て」と呼びかけるホアに、たまらず唇を寄せる。しかし、ホアには、汚れきった自分が、チャンの純粋な求愛に値しない人間であることがわかっていた。「病気が染るから」と、手でチャンの唇を押しとどめたホアは、その手にチャンの熱い涙がこぼれるのを感じた。彼女は、チャンの気持に応えようと思った。いまの自分に、たったひとつだけ残された両手を使って……。


エロスの純愛
エロスの悪戯
エロスの誘惑